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立夏

  • 執筆者の写真: FRACTUS 編集部
    FRACTUS 編集部
  • 5月5日
  • 読了時間: 3分

2025年5月5日

二十四節気 「立夏」




立夏は、ちょうど春分と夏至の間にあたる節気です。

京都では、上賀茂神社の摂社・大田神社に2万5千本以上咲き誇る杜若が満開の見頃を迎え、藤の花と相俟って水辺に彩りを添えています。


現代は6月1日から衣替えをしますが、平安時代は旧暦4月1日から9月末までを夏の御料とし、夏と冬の年2回行われていました。これを祓えを込めて「更衣」と呼んでいましたが、次第に天皇の身支度を整える女官職のことを更衣と言うようになったため、今では衣替えというのが一般的になっています。


生絹(すずし|生糸を織り込み、張りを持たせた夏向きの生地)で整えられた薄絹は、襲色目(かさねのいろめ)で「杜若」「葵」などの初夏の色合わせが楽しまれていました。


また、夏の生地として広く使われていた「麻」で仕立てられた衣装は「帷子(かたびら)」と呼ばれ、古くは奈良や滋賀が産地でした。麻は水洗いや砧打ち、天日干しをして精練(せいれん|生地を柔らかく、白くすること)され、この工程を「晒(さらし)」と云います。

この工程が、時代と共に移り変わることを示す和歌があります。


春過ぎて 夏来るらし 白妙の 衣干したり 天香具山 (『万葉集』|持統天皇)


万葉集にはこのように書かれている一首が、百人一首ではこのように変化しています。


春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天香具山


持統天皇がこの歌を詠まれたのは600年代後半、藤原京(奈良県)でのことでした。

対して百人一首の撰者・藤原定家が生きたのは1200年代、平安京(京都府)です。

「干したり」と実際の風景を詠われた持統天皇に対し、「干すてふ」と、伝聞形に改変された言葉選びは定家によるものと云われますが、およそ600年が経過し遷都した京の都の付近では、農家による「晒」の風景は見られなくなっていたのかも知れません。



もう一つの見方としては、持統天皇は藤原京から臨む香具山、畝傍山、耳成山の3つの山のうち、「天」が冠される「香久山」のみを主題に挙げています。神降る聖なる山とされた香久山にかかる白妙の衣。想起されるのは天女の羽衣です。

この頃に入ってきた「暦」を操る天子となり、一国の祭祀王として「神御衣(かんみそ)」を奉る、天皇に立たれた持統天皇の、国の弥栄を願われた矜持と覚悟を詠まれた歌であるようにも思われます。

690年に伊勢神宮の式年遷宮を創められたのも持統天皇ですので、今に伝わる「神御衣奉織始祭」に捧げるための御料だったのかも知れません。



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月虹舎文庫は金閣寺を西に面する京都市北区に在りますが、もう一つ、この地に残る由緒として「衣笠山」の謂われがあります。800年代後半に在位し、菅原道真公が仕えた「宇多天皇」は、風流を解する文化人でした。ある時夏に雪を見たいと、離宮(現在の仁和寺)の背にある山に一面の白衣を掛けて「雪見」をしたと伝わります。

金閣寺から仁和寺に抜ける道は、今でも「きぬかけの路」と呼ばれて親しまれています。


天子としての矜持を詠った持統天皇。

風雅を詠んだ宇多天皇。

今様に歌をアレンジした藤原定家。

皆様はどの「白妙の衣」に惹かれますか?





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