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衣 ― cloting ― 装う。

  • 執筆者の写真: FRACTUS 編集部
    FRACTUS 編集部
  • 2025年2月4日
  • 読了時間: 2分

紅に 衣染めまく 欲しけれど         

 着て にほはばか 人の知るべき


『万葉集』巻7-1297  読み人 柿本人麻呂

 


万葉集で詠われた和歌には、古代の染料植物に因む歌が数知れず。そのほとんどが相聞歌です。

卑弥呼の墓の比定地ではないかともいわれる、纏向遺跡にある3世紀中頃の遺構から大量の紅花の花粉が発見され、それまで出土していた6世紀の記録を大きく塗り替えました。





古代の着物は全て薬草で染められた、「着る薬」です。紅花は今でも血行促進や婦人病の血行障害による生理痛の漢方薬として用いられています。  

中でも紅は、古代から最も人々が憧れ禁色にも指定された、高価な色でした。

最初はフラボノイド系のサフロミンである黄色の色素しか出ないものを、洗って洗って、最後に溶けだした赤い色素に烏梅(うばい|未熟な梅の実を薫製にしたもの。梅に含まれるクエン酸を媒染剤として使用する。)を加えて沈殿させたものが、玉虫に光る艶紅です。

 

現代の紅花の産地は山形です。江戸時代に桓武平氏の子孫が千葉から山形に種を持ち込み栄えたとされる説が有力で、紅花は「紅一匁、金一匁」といわれ、金と同じ目方で取引されるほどでした。現在の貨幣価値に換算するとキロ3~4万円。米の100倍の価格だそうです。世の女性が憧れたのも頷けます。

 

江戸中期以降に流行した御所解文様の帷子には、袖口に紅絹がつけられています。

地白に紅?

そうです、この白に赤が透けるのが艶めかしく、かつ汗で溶けだした紅花が肌に移るのが匂いやかとされたのです。




 

艶紅の鮮烈な赤は、ハッとする程人目を引きます。

電気の無い時代、薄い帷子に施した紅越しに覗く白魚のような指先が、御帳の中燭台に照らされる様は、どんなにか印象深いことだったでしょう。

歌舞伎役者の坂東玉三郎さんはお顔をする時、残った紅を爪先と耳に少し乗せるそうです。慎みと恥じらい。少女から恋を知り羽化する女性の移ろいのごとく、紅は濃度によって桜色から深紅まで鮮やかに変化します。

 

現代でも、世の女性は好きな人に会う前に紅を差します。

秘めていても、色に出るほどに恋しい想い。

装いは、心をのせること。

日本の装いの文化は、歌に、着物に、今もなお密かに息づいています。







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