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食 ― food ― 食す。

  • 執筆者の写真: FRACTUS 編集部
    FRACTUS 編集部
  • 2025年2月16日
  • 読了時間: 3分

更新日:2025年2月16日


土は5億年前に誕生したそうです。

それを作ったものは、原始の地衣類と呼ばれる菌類と藻類が共生する生命でした。





それまでは荒涼とした岩石に覆われていた地表に、海揚がりの生物が一歩足を踏み出したときから悠久の時を経て、人類は「農業」を発明することで、定住を実現し種の繁栄を謳歌してきました。


静岡大学農学部の佐藤洋一郎助教授の研究によれば、日本人が主食とする稲は熱帯ジャポニカ米と温帯ジャポニカ米があり、縄文時代は焼畑農業による熱帯ジャポニカ米を主に栽培していたそうです。

次第に温帯ジャポニカ米へ栽培の軸を徐々に推移していったのは、古墳時代に気温が5度も下降した寒冷化による気候変動が原因とのこと。


栽培品種の変化は、出土する土器の形の変容に表れています。

やや土器を浮かして満遍なく火が当たるように炊き、水分量を調整するため転がしながら炊く炊飯方法は熱帯ジャポニカ米に適し、炊きムラが出来やすい温帯ジャポニカ米は竈の伝来により蒸す調理に変化しました。

土を耕し稲を植え、土を捏ねて土器をつくる。それは全て、「いかに収量を多くし、かつ美味しい米を得るか。」という飽くなき探求によるものです。







菅原道真の祖である土師氏は、元は葬送を装飾する埴輪を焼く集団でした。

次第に弔いの土器より暮らしの土器を焼くようになり、雄略天皇(418-479)が京都府亀岡市に土師氏を集め、土器を焼かせるようになりました。この土地は今でも「土師」と呼ばれています。


長屋王の屋敷跡からは日々の食器を焼く「土師女」に報酬を与えたことを示す木簡が出土しています。土を運んだり窯焚きをしたりするのは男性だったようですが、作陶するのは女性の仕事だったようです。「土師女」と呼ばれるこの人々は、もしかしたら最初の官窯に所属する陶工人かも知れません。

平安中期に書かれた『延喜式』には「竈二口」との記載があり、当時の竈のスタンダードは2口コンロだったことがわかります。納められた調理道具は内膳へ渡され、宮中の食事を賄いました。

食事に使われる食器は土師器と須恵器がメインです。不浄を嫌う宮中では土師器の盃は「清浄の器」として好まれ、祭や宴で使い捨てにされるため、つい最近まで京都市岩倉木野エリアでは土師器が焼かれていました。


土師器の盃で振舞われるのは米を醸した酒です。

新嘗祭とは、本来豊かな実りをもたらしてくれた太陽の復活を願い冬至に行います。

農家の女性たちは、その年穫れた稲穂を一束持ち帰り、一晩添い寝して「稲霊」を宿します。

新嘗祭で捧げられる新酒は「甕」で熟成されます。甕は「もたい」とも読み、米を酒に変える神秘の母体を表しています。


夏至から陰へ移り変わり、冬至で極まった陰は陽へ転じる。


一体不可分の陰陽の循環は、米から酒へ、土から土師器へ、あらゆる変容を経ながら、人の営みという不変の理を浮かび上がらせます。





前述の雄略天皇は、呉織・漢織を招き、秦酒公に命じて養蚕を推奨しました。

秦氏はまた酒造りを生業とし、京都の秦氏の本拠地・太秦には酒造りの神「大山咋神」を祀る松尾大社が鎮座します。

秦氏が産業化した養蚕により紡ぎ出された糸は、稲の藁灰で白く精錬します。

糸は、5億年前に土を生み出した地衣類で、美しい紫色に染めることができます。

2000年の間変わることのない季の巡りは、稲の生長が中心となっているのです。





参考文献

・『大地の五億年』 藤井一至著 ヤマケイ文庫

・『稲のきた道』 佐藤 洋一郎著 裳華房

・『採花譜 水と素(しろ) - 始まりの地へ - 2021年冬至』 京きもの蓮佳著 月虹舎文庫




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