丹ゆう art gallery | 福田匠「床咄其ノ肆」
¥60,000
丹波篠山にてアートギャラリー「 丹ゆう art gallery 」 @tanyu.artgallery を営む画家・福田匠さんに、一年を通して「 床噺 」と称し、salon&gallery虹霓 の室礼のご提案をしていただいております。
第四回目の床噺を福田さんよりお聞かせいただきます。
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「床咄其ノ肆」 ー 雪の香り ー
“君かへす 朝の舗石 さくさくと 雪よ林檎の 香のごとくふれ”
今回いただいたお題は「雪」です。
冬の風物詩である雪は、ときに抒情的であり、幻想的であり、象徴的です。
美術や文学・音楽などの幅広い分野で表されることも多いので、雪と聞くと色々なものごとを連想するでしょう。
冒頭の短歌は日本を代表する歌人であり、近代文学史において偉大な業績を遺した北原白秋(きたはらはくしゅう・1885 〜1942)の代表作です。
朝に君を帰す、すなわち一夜を共にした君とは互いに愛し合う関係であることが窺えます。
舗石に降り積もった雪をさくさくと踏み締めながら君は帰ってゆきます。
二人の逢瀬は終わり、一時的に別れなければなりません。
ならばせめて私が側にいない間だけでも、降り掛かる雪よ、林檎のような甘く瑞々しい香りで君を優しく包んでおくれ。
このような読み取り方ができるでしょうか。
また、雪を踏むさくさくというオノマトペは林檎を噛む音にもかかっており、白い静寂の世界とそれを破るさくさくとい う音の対比によって、「わたし」のやり切れない思いを際立たせています。
実はこの歌は白秋自身のことであり、「君」とは不倫関係にあった松下俊子のことを指しています。
夫である松下長平の愛人問題や暴力に悩まされていた俊子と隣家の白秋は互いに惹かれ合い、次第にこのような関係に至 ったのでしょう。
その事実を知ると、白秋が雪に対して訴えかける箇所などは、より一層の切実さを伴って哀しくもうつ くしい光景を立ち上がらせてくれます。
しかし、当時不倫は姦通罪という罪でした。
俊子は長平から離婚宣告を受けたものの、離婚未成立を理由に二人は告訴されます。
詩壇の寵児だった白秋とて例外なく罪の烙印は押され、その名声は地に堕ちました。
しかし、どのようなかたちの関係であっても、白秋にとって林檎の香りとは彼女を包み込む真の愛だったのです。
この騒動を経た後、冒頭の歌を含む記念すべき第一歌集「桐の花」が刊行され、そして同じ年に二人は結婚をして結ばれ たのでした。
さて、林檎といえば私は敬愛する画家のひとりであるセザンヌを想起します。
壁に掛けられた小品は、セザンヌの古い画集を活用したコラージュ作品です。
「近代絵画の父」とよばれたポール・セザンヌは、アカデミックな理論や遠近法を排した革新的な画面をつくり出しまし た。
一般的にピカソやブラックがキュビズムを創始したといわれていますが、実はセザンヌの作品にその萌芽があったと の見方もあり、それをテーマに押し進めたのが本作です。
セザンヌが描いた林檎をさらに解体、再構築をして他角度からの林檎空間を同居させたキュビズム的画面は、動きのない 静物画と違い、転がり落ちるような林檎の運動を感じさせます。
床には敷板や花台代わりに林檎箱を用意しました。
そして、その上には前述した白秋の第一歌集である「桐の花」、冒頭の歌の頁を開いて。
今回は「雪」からの繋がりや連想で、図らずも敬愛する二人の芸術家が床の間で邂逅しました。
人や時代・国・事象など、あらゆることを超えて巡り会える舞台が床の間です。
カミが宿る神聖な場とされていますが、堅苦しいことを考える必要はなく、様々な可能性を秘めた装置として床の間を活 用するのも考え方のひとつではないでしょうか。
余談ですが、昭和 22 年に姦通罪は廃止されたものの、現代では SNS やインターネット等の世界を通じて、当事者は不特 定多数の人びとによって社会的、あるいは精神的・肉体的に抹殺されてしまうのだから恐ろしくも皮肉な話です。
ときには文明の利器から程よい距離をとり、想像力を活かして床の間に遊ぶことをおすすめします。
というメッセージを SNS やインターネットで発信しているのだから、どうやら私も随分と毒されているようです。
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Apple 2025
作家 福田匠
寸法 H14,5 W17,5[cm]
技法 紙にコラージュ
価格 ¥66,000(税込)
抒情歌集「桐の花」
著者 北原白秋
大正二年発行 初版 東雲堂出版
林檎箱
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artist profile
福田匠(ふくだ・たくみ)|絵画
古くから数多ある文化や信仰、民俗、芸能、神話など、またはそれらに関連する土地や現象を主題に制作を行います。時代を経て積み重ねられてきた、あるいは失われたものの本質的要素を可視化させる試みは、言い換えれば人びとの無意識下の古層を掘り起こし、新たな意味を見出す作業に他なりません。
ここでいう新たな意味とは、美意識に対する認識や価値の転換であり、それらの要素を掬い上げて作品として提示することは、美術における重要な役割のひとつだと考えています。
略歴
1981 和歌山県出身
2022 兵庫県丹波篠山市にて〈丹ゆう〉開廊
個展
2017 Scrape-Surface and Color(雅景錐・京都)
2015 かたちの在り方(MAISON GRAIN D’AILE・大阪)
2014 Kulchur Voyage(pragmata・東京)
森の技法[巡回展](森岡書店・東京、MAISON GRAIN D’AILE・大阪)
2013 存在と恩寵[巡回展](hase・愛知、MAISON GRAIN D’AILE・大阪)
*その他、展覧会多数
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