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平家納経

  • 執筆者の写真: FRACTUS 編集部
    FRACTUS 編集部
  • 3月18日
  • 読了時間: 3分

更新日:3月20日


啓蟄のターンは、宮島紀行です。

『平家納経』は平家の現当二世(現在と未来)に亘る繁栄を祈り、平清盛が発願し一門32名が一巻ずつ担当し厳島神社に奉納された装飾経の最高峰です。

清盛の願文に「尽善尽美(じんぜんじんび)|「善を尽くし、美を尽くし」とあるように、当時の美術工芸の粋を完璧に極めて制作されました。



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平清盛は平安末期の武将で、伊勢平氏の棟梁である平忠盛の嫡男として生誕しました。平氏は第50代桓武天皇の子孫にあたります。

白河法皇に仕えた祇園女御の保護下で育ち、長じて安芸の守に任じられ瀬戸内の制海権を得て財を成しました。この頃に厳島神社への信奉を深めます。

その後保元・平治の乱での活躍で後白河法皇の信任を得て、公卿を輩出したことのない伊勢平氏として異例の太政大臣にまで立身、日宋貿易で莫大な富を築き武家政権を樹立するなど、栄華を極めました。

その権勢は「平氏にあらずんば人にあらず」と謳われる程でした。


しかし、「おごれる者は久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」の一文のように、諸行無常の響き、盛者必衰の道理は等しく平家にも降りかかります。

その後の建礼門院や平家落人の伝説は、人の涙を誘います。



平清盛は激動の人生を歩みましたが、残された『平家納経』は時代を超えて国宝として数々の災難から守られてきました。

中でも大正3年、高山昇が厳島神社の宮司に就任すると、数々の文化財修繕に着手。『平家納経』の修復を時の文化人・大茶人の高橋義雄と益田孝に相談、2人は事業の重要性に得心し、ものの2、3時間で財界人や数奇者から寄付を集め、副本制作の為の充分な費用を準備しました。


副本制作にあたったのは、「神工鬼手」と謳われた日本画家・書家の田中親美でした。国の一級史料である『平家納経』は文部省から重大管理責任が言明されており、制作期間中原本は益田家宝庫に厳重に保管され、そこから10巻ずつ借り受けて写本が進められました。

そして大正14年、関東大震災が発生します。

田中は激しい揺れに襲われる中、『平家納経』を抱きしめて守ったといいます。

こうして5年半の歳月を経て無事副本が完成し、『平家納経』は今でも私たちに平安末期の美術工芸の極致を示してくれています。







着物を愉しむ人にとって、平家納経は「厳島組」または「経巻組」の帯締めとして親しみがあるかも知れません。

昭和期に行われた大修理で復元を担ったのは有職糸組師「松葉屋」の深見重助です。伊勢神宮の唐組平緒を生涯に30数条制作し、奈良時代に伝わり平安中期以降に我が国で発展した組紐の技術の解明と伝承に努めました。


重助にしか制作できない特別な唐組への思いはひとしおでした。


草木染めの原料を得るために山野を歩いて染めの原料を確保し、原糸を求めて長野や滋賀に足を運んだ。糸揃えに半年、汲み上げに2年余は必要で、一日かけても組みは数センチしか進まない。

組紐ジグザグのマジック|LIXIL出版』より引用


とあるように、大変な手間と労力をかけて制作されています。


今私たちが美術工芸品に親しみ着物を着ることができるのも、こうした先人達が貴重な文化財を身命を賭して残し伝えてくれたお陰なのです。



参考文献

組紐ジグザグのマジック』 大谷 章夫 | 多田 牧子 著 LIXIL出版





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