水の島
- FRACTUS 編集部

- 3月13日
- 読了時間: 2分
更新日:3月19日
私は普段京友禅のデザイナーとして、着物のルーツを尋ねて各地を旅し、古代植物染の探求をしています。
染織には水が必要不可欠です。特に人の心と体を護る「色」を大切にクリエイションをしている為、水の神・瀬織津姫や弥都波能売神、弁財天が祀られる場所のご神水を春分の日や冬至の日などに汲み、染色に活かしています。
中でも、忘れじの旅があります。
日本三大弁財天の一つ、安芸の宮島です。
啓蟄のターンは、思い出深い宮島紀行をまとめてみます。

宮島は、7世紀には既に神の島として崇敬されてきた場所です。
ここにはユネスコの世界道産に制定された照葉樹の貴重な植物相を形成する弥山原生林が、ほぼ手つかずの状態で残っています。

この場所には、日本各地に残る古代の巨石文明の名残を感じる磐座が多数存在しています。
理知的で慈愛に満ちた温かい波動が、まだ肌寒さを覚える早春の山を歩く登山者の頬を撫でていくようです。
宮島で過ごした2日間は、太古からの人々の繋がりと星の守りを感じる神秘的な時間でした。
旅のメモが残っています。
2022年 弥生
我々は、今水の上を歩いている。
縄文の昔から積み重なる花崗岩の岩肌を伝い、山から滲み出る清水はやがて滝となり、滝津姫となって迸り落ちる。
高低差五百メートルを下り落ちた水は、瀬戸の海へと交わる。
砂岩は波に洗われ、白い砂となった。
はるか昔から信仰の島とされた伊都岐島では、枯れ木も落葉も、全て白く染まる。
見渡すと、彼方の峰に在る巨石は白く輝き光を放っている。
光を集め、天へと放射する。
水鏡に映る点と天の軸線は、時間と時空の拠り所として立つ。
この島に神を見るのは、豊かな植生を誇る原始の森と太古の岩が四海に囲まれて光を照射するからであろう。

この地の水は、優しく温かく喉を通る。
水に落ちた葉は腐ることなく照り葉を留め、せせらぎは白い花崗岩に映える月白色に染まり揺蕩う。
この素直なる神水で何を染めるか。
原生林には実生の椿が個性豊かに育つ。
不思議なことにどの木にも木守の如く一輪の花が宿っている。
小さく可憐な赤が、宮島の景色をフォトジェニックに彩る。

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